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取引経緯から商標権者は信義則に反し公序良俗違反の登録とされた事例-ilc.gr.jp

取引経緯から商標権者は信義則に反し公序良俗違反の登録とされた事例 |2019年12月11日


事件種別 審決取消訴訟
権利種別 商標権
事件種類 審決(無効・成立)取消
発明等の名称等 仙三七
事件番号 令和1(行ケ)10073
部名 3部
裁判年月日 令和元年10月23日
判決結果 請求棄却
当事者 原告:(株)ベネセーレ 被告:日本薬食(株)
主な争点 公序良俗違反(4条1項7号)

全文

第1 請求
特許庁が無効2018-890041号事件について平成31年4月19日
にした審決を取り消す。

第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(後掲各証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)
(1)原告は,「仙三七」との文字を横書きにしてなる次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲25)。
登録番号 第5935066号
登録出願日 平成28年10月14日
設定登録日 平成29年 3月24日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第5類 サプリメント
(2)被告は,平成30年5月31日,本件商標につき特許庁に無効審判請求をし,特許庁は,上記請求を無効2018-890041号事件として審理した。
(3)特許庁は,上記請求について審理した上,平成31年4月19日,「登録第5935066号の登録を無効とする。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。その謄本は,同月27日,原告に送達された。
(4)原告は,令和元年5月23日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,その要旨は,次のとおりである。
本件商標の登録出願が行われた平成28年10月14日当時,原告は,被告の製造する健康食品である仙三七商品(「仙三七」との名称が付された商品)やマナマリン商品(「マナマリン」との名称が付された商品)等を仕入れ,我が国で薬局薬店に販売する販売業者として,被告と取引関係にあった。そして,仙三七商品には,被告が登録していた「仙三七」との商標が付されていたところ,それは,「商標使用許諾に関する覚書」(甲6。以下「本件覚書」という。)に基づくものといえる。
原告は,専門家に相談したところ被告が登録していた上記「仙三七」との商標は原告が販売していた商品を正しく保護していないことが判明したためにやむなく本件商標を,サプリメントを指定商品として出願し,平成29年3月24日に登録を得たものであると主張する。
しかしながら,仮にそうであるのであれば,本件覚書7条の規定に従い,原告は,被告に対し,「仙三七」の商標権の登録出願手続をするように注意喚起すれば足りるはずであるのに,それを怠っており,むしろ,「仙三七」という商標が第5類「サプリメント」に商標登録されていないことを奇貨として,本件商標の登録出願を行うことを被告に秘匿したまま,本件商標の登録出願を行っているといえるから,被告の「仙三七」との商標を剽窃したものといわざるを得ない。
以上のとおり,本件商標の登録出願の経緯には著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることは,商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないというべきである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当する。

第5 当裁判所の判断
1 認定事実
(略)

2 取消事由(商標法4条1項7号該当性についての判断の誤り)について
商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く出願行為に係る商標も含まれると解される。
(1)そこで,まず,原告による本件商標の登録出願が,被告との関係で義務違反となりうるかについて検討する。
前記1(1)(2)の各事実によれば,原告と被告とは,本件商標の登録出願が行われた平成28年10月14日時点を含めて,平成11年頃から平成29年10月12日頃までの間,被告が,原告に対し,独占的に本件被告商品やマナマリンなどを卸売りし,原告がこれを薬局薬店等に販売するという長期間にわたる取引関係にあった。
かかる取引関係に関して,前記1.エのとおり,原告と被告とは,被告商標の登録が完了した直後である平成16年3月25日,本件覚書(甲6)を締結した。本件覚書の柱書,1条,3条の記載に照らすと,本件覚書は,被告商標として登録された「仙三七」との商標を,本件被告商品に付して,販売することを前提とするものであることが明らかである。また,本件覚書には,被告及び原告は,第三者が被告商標の権利を侵害し又は侵害しようとしていることを知ったときには互いに遅滞なく報告し合い協力してその排除に努めるものとすること(第5条)や,被告及び原告は,信義に基づいて本件覚書を履行するものとし,万一本件覚書に関して疑義が生じた場合には,被告及び原告はお互いに誠意をもってこれを解決するものとすること(第7条)とする合意が含まれていた。このように,被告が原告に使用許諾して「仙三七」との商標を本件被告商品に付して販売することとされ,第三者からの被告商標に係る商標権の侵害に対する対策も合意された上で,7条において信義に基づいて本件覚書を履行するとされていたことに照らすと,本件覚書において,原告自身が,三七人参を原材料とした健康食品との関連で「仙三七」との商標を商標登録することは全く想定されていないといえる。
以上によれば,長期間にわたり,本件被告商品の卸売りを受けて,これに被告商標と同じ「仙三七」との商標を付して販売し,利益を上げていた原告は,被告との関係において,被告が「仙三七」との商標の商標権者として,かかる商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない信義則上の義務を負っていたものということができる。
そして,原告による本件商標の登録出願は,被告商標と同じく「仙三七」を横書きにしてなる商標について,本件被告商品を指定商品に含むものとして登録出願するものである。かかる登録が認められることになると,被告は,「仙三七」との商標の商標権者として,第三者に使用許諾をするなどしてかかる商標を付して本件被告商品を販売することはできなくなり,重大な営業上の不利益を受けるおそれが生じる。
以上によれば,原告の本件商標の登録出願は,上記信義則上の義務に反するものといわざるを得ない。

(2) 次に,原告の本件商標の登録出願の経緯及び目的についてみる。
前記1.イからエのとおり,原告は,上記出願の前後において,被告に対し,被告商標が本件被告商品を指定商品に含んでいない可能性や自らが本件商標を登録出願することについて何ら告げることはなく,本件商標の設定登録完了から4か月以上経過した後の平成29年8月18日付けの「申し入れ書」(甲7)において,初めて,本件商標の商標権者であることを明らかにした上で,原告と被告との本件被告商品の取引終了を一方的に申し入れると
ともに,被告に対し,マナマリンの商標の譲渡やそれを条件とした三七人参の購入などを提案したものである。
これに対し,上記「申し入れ書」の内容に照らすと,原告自身は,当該「申し入れ書」を送付する前に,被告以外の第三者から,本件被告商品と同種の競合品を購入する段取りを既に整えていたと認められる。
そして,原告は,その後の被告とのやりとりの中で,原告から被告に対する営業譲渡の申入れや被告商標の譲渡の依頼に応じてもらえなかったこと,被告の本件被告商品の仕入れ価格が高額であるために原告独自の商品を生産することにしたことなどをも理由として挙げながら,原告としては被告の生産する本件被告商品が原告の希望仕入れ価格に不適格であると判断し,原告にて新しいブランドで生産から販売を開始することなどを伝えている。
このような原告の言動に照らすと,原告は,「仙三七」との商標が,本件被告商品と同種の商品に付されることによって生じる利益を独占するべく,被告に本件商標と競合する商標を登録出願されないように注意を払った上で,自らは,同種商品の調達ルートを確立する一方で,被告との取引関係を終了する準備を計画的に整えながら,本件商標の登録出願及び上記「申し入れ書」の送付に及んだものといえる。

(3)以上によれば,原告による本件商標の登録出願は,被告が「仙三七」との商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない信義則上の義務を負うにもかかわらず,被告商標が本件被告商品を指定商品として含まない可能性があることを奇貨として本件商標の登録出願を行い,本件商標を取得し,被告が「仙三七」のブランドで健康食品を販売することを妨げて,その利益を独占する一方で,その他の商品の取引に関する交渉を有利に進める
という不当な利益を得ることを目的としたものということができる。
このような本件商標の登録出願の経緯及び目的に鑑みると,原告による本件商標の出願行為は,被告との間の信義則上の義務違反となるのみならず,健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきである。
そうすると,このような出願行為に係る本件商標は,商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものといえる。

(4)原告の主張について
(略)

(5)まとめ
したがって,本件商標は,商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するから,本件審決の判断に誤りはない。

解説

商標法第4条第1項第7号は、
「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は登録できないとしているところ、商標審査基準では、下記のようなものが本号に該当するとしています。

(1) 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。
なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否か は、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。
(2) 商標の構成自体が上記(1)でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。
(3) 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
(4) 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
(5) 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。

判決においては、
「原告の本件商標の登録出願は,上記信義則上の義務に反するものといわざるを得ない」としていますが、これは民法の下記の基本原則に抵触することを指摘しています。

(基本原則)
第1条
私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
権利の濫用は、これを許さない。


関連サイト:

商標法 外部サイトへ

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判例


■このページの著者:金原 正道

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