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押出し食品用の口金に星形の抜き穴を配置した意匠は容易に創作できるとされた事例-ilc.gr.jp

押出し食品用の口金に星形の抜き穴を配置した意匠は容易に創作できるとされた事例 |2020年01月29日


事件種別 審決取消請求事件
権利種別 意匠権
発明等の名称等 押出し食品用の口金
事件番号 (行ケ)第10089号
部名 知的財産高等裁判所第4部
口頭弁論終結日 令和元年10月10日
判決結果 原審決維持
原審裁判所名 特許庁審判部
原審事件番号 不服2019-508号
当事者
原告:有限会社デッキ
被告:特許庁長官
主な争点 意匠法3条2項
全文(PDF)

事案の要旨
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,平成29年11月30日,意匠に係る物品を「押出し食品用の口金」とし,意匠の形態を別紙第1記載のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠登録出願(意願2017-26691号。以下「本願」という。)をした(甲5)。
(2) 原告は,平成30年11月7日付けの拒絶査定(甲8)を受けたため,平成31年1月16日,拒絶査定不服審判を請求した(甲9)。
特許庁は,上記請求を不服2019-508号事件として審理し,令和元年5月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。
(3) 原告は,令和元年6月15日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,①本願意匠は,意匠に係る物品を「押出し食品用の口金」とし,本願の願書の添付図面の記載によれば,ハンディーマッシャー(押し潰し器)等に装着して使用され,略星形の抜き穴から食品を棒状に押し出すことができるものである,②本願意匠の形態は,本願の出願前に公然知られたと認められる意匠1(別紙第2参照)に見られるような角部に面取りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴を,薄い円形板に千鳥状の配置態様になるように19個形成して創作したにすぎないものであって,この創作には当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性があるとはいえず,本願意匠は,当業者であれば,格別の障害も困難もなく容易に創作をすることができたものと認められる,③そうすると,本願意匠は,当業者が本願の出願前に日本国内において公然知られた形状の結合に基づいて容易に創作をすることができたもの(意匠法3条2項)に該当し,意匠登録を受けることができないから,本願は拒絶すべきものであるというものである。

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


1 原告の主張
(1) 創作容易性の判断の誤りについて
ア 本願意匠は,星形の抜き穴を1枚の無垢の円形板に複数個,均等に穿設する際に,円形板と,整列した抜き穴が構成する図形と,抜き穴のない周縁部分が,唯一無二の美感を与えるように,個々の抜き穴のサイズを決定し,抜き穴の数を19個とし,これを千鳥状に配置したものである。本願意匠は,抜き穴のうち外側に配置された抜き穴が形成する正六角形と,その外側の蒲鉾状の周縁部分及び円形板の円形の全てが,円形板の中心点を中心として均等に整然と配置され,落ち着きと,併せてリズム感ないし安定性を表現している。
すなわち,下記の図1(星形の中心点を結んで六角形で描いた図)に示すように,円形板の円形の中に,六角形を成す抜き穴が配置された態様は,リズム感があり,全く新しい美しさである。また,図2(周縁にできる蒲鉾上の余白部分を示した図)に示すように,6個の蒲鉾状図形と,円形板の円形が醸し出す美しさは,全ての物品から理解できる美しさを凌駕する。
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これにより,本願意匠は,独特の美感をもたらし,これまでにない美感を看者に与えるものであるから,本願意匠の創作には当業者の立場からみた着想の新しさないし独創性がある。
したがって,本願意匠は,本件審決が述べる本願の出願前に公然知られた形状の結合に基づいて当業者が容易に創作をすることができたものとはいえないから,本件審決における本願意匠の創作容易性の判断には誤りがある。

(中略)

2 被告の主張

(中略)

第4 当裁判所の判断
1 本願意匠について
(1) 本願意匠は,意匠に係る物品を「押出し食品用の口金」とし,本願意匠の形態は,別紙第1記載のとおりであり,薄い円形板に,角部に面取りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴を,同一の方向性に向きを揃え,各抜き穴の中心部を結んだ線のなす角度が60°となるような千鳥状(「60°千鳥」)の配置態様で19個形成したものである。

(2) 本願の願書(甲5)の「意匠に係る物品の説明」欄には,「本願意匠は,主にステンレス製の薄板で作成する。食品に清潔感を表現する。」との記載がある。
本願意匠に係る「押出し食品用の口金」は,ハンディーマッシャー(押し潰し器)等に装着して使用され,抜き穴から食品を棒状に押し出すことができるものであり,略円筒形状の底面部内周部分に環状縁部を設けた上記調理器具に装着して使用されるものである(別紙第1記載の「使用状態を示す参考図1」及び「使用状態を示す参考図2」)。

2 創作容易性の判断の誤りについて

(1) 本願の出願前に公然知られた形状等について
ア 意匠1(乙1)
意匠1の意匠に係る物品は,インド菓子「ムルック」を作製する調理器具である「ムルックメーカー」(murukku maker)に装着し,ムルックの食材を抜き穴から押し出して棒状に形成する際に使用する「押出し食品用の口金板」である(乙1)。
意匠1は,別紙第2記載のとおり,「薄い円形板の中心付近に,角部に面取りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴を1個形成したもの」であり,本願意匠の出願前に公然知られた形状であることが認められる。

イ 意匠2(乙2)
意匠2の意匠に係る物品は,インド菓子「ムルック」を作製する調理器具である「ムルックプレス」(murukku press)に装着し,ムルックの食材を抜き穴から押し出して棒状に形成する際に使用する「押出し食品用の口金板」である(乙2)。
意匠2は,別紙第3記載のとおり,「薄い円形板の中心から略等距離の位置に,角部に面取りを施した6つの凸部からなる星形の抜き穴を,正三角形となる配置態様で3個形成したもの」であり,本願意匠の出願前に公然知られた形状であることが認められる。

ウ 意匠3(乙3)
意匠3の意匠に係る物品は,押出し食品用の調理器具としても使用できるステンレススチール製の「ポテトライサー(Potato Ricer)」に装着し,じゃがいも等の食品を抜き穴から押し出す際に使用する「押出し食品用の口金板」である(乙3)。
意匠3は,別紙第4記載のとおり,「薄い円形板の全面部分に,同一形状の長円形の抜き穴を,その長手方向の傾きの角度を揃えて,略千鳥状の配置態様で19個形成したもの」であり,本願意匠の出願前に公然知られた形状であることが認められる。

エ 乙4等
(ア) 乙4
(https:// 以下省略 のインターネット・アーカイブ「誰でもわかるパンチングメタル」)
乙4には,「パンチングメタルとは」,「パンチング加工(孔あけ)が施された板状やシート状の金属材料です。」,「パンチング加工とは」,「パンチとダイと呼ばれる金型を使って板状やシート状の材料を打ち抜く加工方法のことです。…さらに,配列や孔の形状・大きさを工夫することでデザイン性を持たせることができ,装飾用パネルとしてもご使用いただけます。」,「これだけは知っておきたいパンチングメタル3つの基礎知識」の「2.孔の配列について」として,「孔の配列では,千鳥(ちどり)と呼ばれる互い違いに孔が開いたものがよく用いられます。孔の位置関係により,60°千鳥(ろくじゅうどちどり)や45°千鳥(よんじゅうごどちどり)などと呼ばれます。このほかに,並列に並んだものがポピュラーです。」との記載がある。
また,乙4には,別紙第5記載のとおり,10個の丸孔が60°千鳥で配列された図が示されている。

(イ) 乙5
(https:// 以下省略 のインターネット・アーカイブ)
乙5には,8個の丸孔が60°千鳥で配列された「パンチング配列パターン」が示されている。

(ウ) 乙6
(https:// 以下省略 のインターネット・アーカイブ)
乙6には,「丸孔」の「千鳥抜60°」の項目に「孔は正三角形の頂点に開けられており,孔の中心を結ぶ線の角度が60°で配列されています。千鳥抜きは配列が整然と美しくインテリア分野に最適で,また濾過・飾用としても多く使用されてます。パンチングメタルのほとんどがこの型です。」との記載がある。
また,乙6には,14個の丸孔が60°千鳥で配列された「千鳥抜60°」の図が示されている。

(エ) まとめ
前記(ア)ないし(ウ)及び前記ウを総合すれば,本願の出願当時(出願日平成29年11月30日),①板状の金属材料にデザイン性を持たせるため,60°千鳥の配置態様で,複数個の「抜き孔」を設けることは,ごく普通に行われていたことであり,当業者にとってありふれた手法であったこと,②19個の抜き穴を千鳥状に配置する形状は,公然知られていたこと(例えば,意匠3)が認められる。

(2) 検討
ア 意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的モチーフとして意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準として,当業者が容易に創作をすることができる意匠でないことを登録要件としたものであることに照らすと,意匠登録出願に係る意匠について,上記モチーフを基準として,その創作に当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性があるものと認められない場合には,当業者が容易に創作をすることができた意匠に当たるものとして,同項の規定により意匠登録を受けることができないものと解するのが相当である(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和48年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参照)。
これを本願意匠についてみるに,

(中略)

しかるところ,前記(1)ア及びイの認定事実によれば,本願意匠に係る「押出し食品用の口金板」の物品分野においては,抜き穴から食品を棒状に押し出す調理器具に使用される金属製の円形板の口金板に設けられた,角部に面取りを施した5つ又は6つの凸部からなる星形の抜き穴の形状は,本願の出願当時,公然知られていたことが認められる。
加えて,前記(1)エ(エ)認定のとおり,板状の金属材料にデザイン性を持たせるため,60°千鳥の配置態様で,複数個の「抜き孔」を設けることは,本願の出願当時,ごく普通に行われていたことであり,当業者にとってありふれた手法であったこと,19個の抜き穴を千鳥状に配置する形状は公然知られていたこと(例えば,意匠3)に照らすと,本願意匠は,本願の出願当時,円形板の抜き穴の形状として公然知られていた角部に面取りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴(例えば,意匠1)を,当業者にとってありふれた手法により,薄い円形板に,同一の方向性に向きを揃えて,60°千鳥の配置態様で19個形成して創作したにすぎないものといえるから,本願意匠の創作には当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性があるものとは認められない。
したがって,本願意匠は,本願の出願前に公然知られた形状の結合に基づいて,当業者が容易に創作をすることができたものと認められる。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

(中略)

しかしながら,前記ア認定のとおり,本願意匠は,本願の出願当時,円形板の抜き穴の形状として公然知られていた角部に面取りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴(例えば,意匠1)を,当業者にとってありふれた手法により,薄い円形板に,同一の方向性に向きを揃えて,60°千鳥の配置態様で19個形成して創作したにすぎないものである。
そして,前記1(2)認定のとおり,本願意匠に係る物品「押出し食品用の口金」は,略円筒形状の底面部内周部分に環状縁部を設けた調理器具に装着して使用され,抜き穴から食品を棒状に押し出すことができるものであることに照らすと,調理器具の環状縁部と当接する口金の周縁部分に抜き穴を形成することができない余白部分が生じ得ることは,当業者であれば,当然想定するものといえる。また,円形板の口金に,角部に面取りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴を,同一の方向性に向きを揃えて,60°千鳥の配置態様で19個配置する場合には,円形板の直径と円形板に配置する星形の抜き穴に外接する円形の直径の比率,抜き穴と抜き穴の中心間隔(ピッチ)等に応じて,口金の周縁部分の余白部分の大きさは一定の範囲内のものに収まること,円形板の中心に星形の抜き穴を配置し,これを中心点として19個の星形の抜き穴を60°千鳥に配置した場合,外側に配置された星形の抜き穴の周縁部側の凸部先端をそれぞれ直線で結んだ図形は正六角形となり,この図形と円形板の外周とで形成される余白部分が蒲鉾状となることは自明であることに照らすと,別紙第1記載の本願意匠の余白部分の形状の創作に着想の新しさないし独創性は認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

3 結論
以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。

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解説

意匠法第3条第2項は、
「意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られ、頒布された刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた形状等又は画像に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、同項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。」
と規定しています。

つまり、容易に創作できない意匠であることが必要です。
意匠登録出願前に、その意匠の属する分野の当業者が、日本国内・外において公然知られた形状、模様等に基づき、容易に意匠の創作をすることができる意匠は、登録が認められません。

容易に創作することができる意匠と認められるものの例として、(1)置換の意匠、(2)寄せ集めの意匠、(3)構成比率の変更又は連続する単位の数の増減による意匠などが該当します。

この判例では、本願意匠は,本願の出願当時,円形板の抜き穴の形状として公然知られていた角部に面取りを施した5つの凸部からなる星形の抜き穴を,当業者にとってありふれた手法により,薄い円形板に,同一の方向性に向きを揃えて,60°千鳥の配置態様で19個形成して創作したにすぎないものとした点が、意匠法第3条第2項に該当するとしたものです。


関連サイト:

意匠法 外部サイトへ

容易に創作できない意匠であることが必要です 外部サイトへ


関連ページ:

判例


■このページの著者:金原 正道

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